2022年9月23日、ユベントス取締役会で2021年度 (2021年7月~2022年6月)の決算が承認されました。その決算内容は、254百万円ユーロ、日本円に換算すると約350億円の最終損失となり、パンデミックの影響を受けた前年度の過去最大赤字(209百万ユーロ)を大幅に超える結果でした。
当年度中に400百万ユーロの増資をしたことで、債務超過は回避できましたが、もし2022年度も多額の赤字を発生させると債務超過になるリスクがあり、多くの選手を放出せざるを得ない状況となります。国内セリエAでの王者奪還が更に難しくなり、より充実した選手を保有するプレミアリーグを相手にする欧州チャンピオンズリーグでの優勝なんてもうあり得ない夢となってしまいます。
それでは、なぜ5期連続の赤字となってしまったのかというと、1) 所属選手を他チームへ移籍させることにより得られる移籍金の収入が大きく減少したことや、2) チーム所属選手・スタッフに支払うサラリーが高すぎることと 3) 多額の移籍金を費やして選手を獲得してきた、この3点が主な原因です。
1つ目の移籍金による収入は、2019年度までは100~170百万円ユーロを計上しており、これはアルトゥーロ・ビダル、そして現在はユベントスに復帰したポール・ポグバやレオナルド・ボヌッチ等を売却したことで得られましたが、パンデミックの影響を受けた2020年度からはそれまで高騰していた移籍市場は急激に冷え込み、高額な移籍金を払ってでも選手を獲得しようとするクラブが少なくなってしまいました。
そしてユベントスの経営状況を圧迫しているチーム人件費用と移籍金の償却費は、2018年度以降ずっと高い水準を保っています。この原因は、2018年7月にレアルマドリードから115百万ユーロの移籍金を費やして獲得したクリスティアーノ・ロナウドの影響が大きいです。年間30百万ユーロのサラリーと28百万ユーロの移籍金償却費を合わせて合計58百万円ユーロ、更にその所得税の負担も考慮すれば、70百万ユーロ程度が年間費用となっていました。2021年8月にマンチェスター・ユナイテッドに移籍したので、2022年度 (2022年7月~2023年6月)のコストは改善するでしょう。クリスティアーノ・ロナウドの投資効果に関して分析した記事は、こちらをご覧ください。
2022年6月末時点のバランスシートは昨年度末に比べて、資本金を増額したことにより純資産が増加し、固定負債の減少が見受けられます。資本金増額により得た現金を主に長期借入金の支払いに充てたと分かります。負債の項目に括弧で記載しているのが、他チームより獲得した選手に対する移籍金の支払い義務の金額です。2022年6月末時点で総額290百万ユーロあり、例えば2022年1月にフィオレンティーナから獲得したドゥサン・ブラホヴィッチ、その他デニス・ザカリア等の移籍金の支払いが将来発生します。
一方で選手を売却したことによる入金待ちの金額は総額で123百万ユーロです。この金額で上記290百万ユーロの支払いの半分もカバーできず、金融機関からの追加借り入れ、現在保有している選手の売却やチャンピオンズリーグで好成績を収めて現金を確保する必要があります。もし2021年度中に400百万ユーロの資本増額がなければ、既に債務超過となっていたはずで、金融機関から繰り上げ返済の要求があればデフォルトを起こしていたでしょう。
2022年度のユベントスが最終損益を黒字になるには、ざっくりいうと売上を200百万ユーロ伸ばして、コストを50百万ユーロ削減しないと実現しません。
2021年度終了後に、高額サラリーでチームの主力だったパウロ・ディバラとの契約更新を打ち切りにし、同じく高額サラリーで80百万ユーロで獲得したオランダ代表のマタイス・デ・リフトをボーナス込みの70百万ユーロでバイエルン・ミュンヘンに売却、その他ジョルジョ・キエリーニ、フェデリコ・ベルナルデスキ、アルヴァロ・モラタ、アーロン・ラムジー、デニス・ザカリア、アルトゥールとの契約を打ち切りました。一方で、移籍金無しでポール・ポグバ、ディ・マリア、移籍金発生でフィリップ・コスティッチ、レアンドロ・パレデス、ミリックを獲得して、選手層を保ちながらサラリーの削減に動いています。
引き続き高額サラリーの選手の放出と国内リーグよりも勝ち進めば高額な放映権収入の見込める欧州チャンピオンズリーグの2点にフォーカスして経営成績の改善と現金の拠出を目指す必要があります。現時点、財務状況を考慮すると高額な違約金が発生するアッレグリ監督の解任は、現在の財務状況からしてそんなことを検討する余裕はなく、現状の戦力で故障者の回復を期待して、欧州チャンピオンズリーグのグループステージ突破することが当分の目標となるでしょう。
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